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HBA1cの正常値はどれくらいですか


70代男性、糖尿病で加療中です。一時コントロールが悪くなったのですが、今日のHBA1cは6.7%とバッチリでした。
「よかったですね、この調子で続けていきましょう。」
「はい、ところでHBA1cの正常値ってどれくらいなのですか?」
「うん、とってもいい質問ですね。ちょっと面倒くさい話になるんだけど、大丈夫ですか?」
「はい。」
「私たちの身体には、テレビや冷蔵庫と違って、設計図ってないですよね。」
「そうですね。」
「なので、正常値っていうのは分からないのが本当のところなんです。」
「どういうことですか?」
「普通に数字で表される検査数値の正常値を決めるために、たくさんのデータを集めることになります。そのデータの平均値とかを調べて標準偏差とかを調べて、90パーセントの人はここに入ってますっていうのが、ざっくりとした正常値の意味なんですね。」
「なんかややこしいですね。」
「ですよね、糖尿病の場合にはHBA1cをチェックするのですが、それが重要なのは、数値が上がってくると、目や腎臓などの障害が増えてくる。糖尿病の合併症が増えてくるので、それが起こらないようにしたいわけです。そのために、人間(医者)が、6.5%以上を糖尿病としましょう、7%を越えるようならこのままではいけないので、治療法を考え直しましょうとしました。糖尿病のHBA1c7.0%は正常値から外れてはいますが、それほど合併症が増えてくるわけではないので、この辺りを目標にするんですね。糖尿病治療においては、正常値を目指すのではなく、目標値を目指す治療になります。」
「そうなんですね、それで十分ってことなんですね。」
「はい、正常値を目指し過ぎて低血糖になる人が多く、結局重大な合併症が増えたので、正常値を目指す治療は無理をしてまではやらなくて良いということになったんですね。
「なるほど、安心しました。」
ともかく、『正常値』という名前がそもそもおかしいのだと思います。『正常値』に対応する言葉は『異常値』なので、正常から少し外れるだけで余計な心配をしなくてはいけなくなっていると思います。人類にはそもそも人体の設計図がないんだという謙虚な立ち位置に戻って、『標準範囲内』くらいの名前にした方が良いのではないかと思います。